大飯原発 運転再開認めない判決

福井県にある関西電力大飯原子力発電所の3号機と4号機の安全性を巡る裁判で、福井地方裁判所は21日、「原発には極めて高度な安全性や信頼性が求められているのに、確たる証拠のない楽観的な見通しの下に成り立っている」と指摘し、住民側の訴えを認め、関西電力に対し、運転を再開しないよう命じる判決を言い渡しました。
東京電力福島第一原発の事故のあと、原発の運転再開を認めないという判断は初めてで、原発の安全性を巡る議論に影響を与えそうです。
福井県にある大飯原発の3号機と4号機は福島第一原発の事故のあと、おととし運転を再開しましたが、去年9月に定期検査に入り、現在、運転を停止しています。
裁判を起こした周辺住民などは「安全対策が不十分だ」として運転を再開しないよう求め、これに対し、関西電力は「安全上問題はない」と反論していました。
判決で福井地方裁判所の樋口英明裁判長は、はじめに「福島の原発事故では15万人もの住民が避難生活を余儀なくされ、原発には極めて高度な安全性や信頼性が求められている」と述べました。
そのうえで「原発の周辺で起きる地震の揺れを想定した『基準地震動』を上回る揺れがこの10年足らずの間に、全国の原発で5回も観測されていることを重視すべきだ。大飯原発の基準地震動も信頼できない」と指摘し、さらに「地震が起きた時に原子炉を冷却する機能などに欠陥がある。原発の安全性などが確たる証拠のない楽観的な見通しの下に成り立っている」と述べました。
そして「福島第一原発の事故では一時、250キロ圏内の住民の避難が検討されたことがある」などとして、原告のうち、原発から250キロ圏内の住民について訴えを認め、関西電力に対して大飯原発の3号機と4号機を運転再開しないよう命じました。
福島第一原発の事故のあと、原発の運転再開を認めないという判断は初めてです。
最後に樋口裁判長は「電力会社側は原発の運転が電力供給の安定性やコストの低減につながると主張するが、多くの人の生存そのものに関わる権利と電気代の問題を並べて判断することは法的に許されない」と述べ、「豊かな国土と国民が根を下ろして生活していることを取り戻せなくなることが国の財産の喪失だ」と強調しました。
大飯原発を含む全国の原発を巡っては、現在、原子力規制委員会が運転再開の前提となる安全審査を進めているところで、21日の判決は原発の安全性を巡る議論に影響を与えそうです。

全国の原発裁判にも影響か

原子力発電所や原子力施設を対象に運転の停止などを求める訴えは、弁護団によりますと全国でおよそ30件起こされていて、21日の判決は各地の今後の裁判にも影響を与えそうです。
原発の運転停止などを求めた訴えは愛媛県の四国電力伊方原発に対する裁判など、昭和40年代から各地で起こされましたがほとんどが退けられてきました。
このうち石川県の北陸電力志賀原発と福井県の高速増殖炉「もんじゅ」を巡る裁判では、原告の訴えを認める判決も出されましたがこの2件もその後、高等裁判所や最高裁判所で訴えが退けられて確定しました。
しかし3年前の東京電力福島第一原発の事故のあと、原発などに対する裁判や仮処分の申し立てが再び各地で相次いで起こされています。
「脱原発弁護団全国連絡会」によりますと、現在、建設中や建設予定も含めて北海道から九州までの16の原発や原子力施設を対象に運転をしないことや設置を許可しないことなどを求めて合わせておよそ30件の訴えが起きていて、21日の判決は各地の今後の裁判にも影響を与えそうです。
また、原発事故のあと全国の弁護士会でも原発に関するシンポジウムや勉強会が開かれたり、裁判官が審理の進め方などを意見交換する司法研修所の研究会でも、原発訴訟がテーマとして取り上げられるなど関心が高まっていました。

判決のポイント

判決は、全国の原発で行われている地震の想定の根拠について「楽観的な見通しに過ぎない」と厳しく批判しました。

基準地震動について

全国の原発では国の基準に基づいて、電力会社が原発の周辺で起きる可能性のある地震の揺れの強さを想定して「基準地震動」を定めています。
裁判のなかで関西電力は、大飯原発の「基準地震動」を700ガルとしてきました。
しかし、21日の判決では、「この10年足らずの間に『基準地震動』を超える揺れが5回観測されていることを重視すべきだ。地震大国の日本において、大飯原発に基準地震動を超える揺れの地震が来ないというのは、根拠のない楽観的な見通しに過ぎない」と厳しく批判しました。

冷却機能の欠陥

また、原子炉の冷却機能についても「基準地震動より小さな揺れでも原子炉を冷やす電源や給水する機能が同時に失われ、重大な事故が起きるおそれがある」と指摘しました。

放射性物質の閉じ込め

さらに、放射性物質を閉じ込める構造についても「使用済み核燃料プールの設備が堅固なものではないため、設備の破損によって、冷却水や電源が失われた場合、放射性物質を閉じ込められない状態になる」と指摘しました。
そのうえで、これまでの関西電力の対応について「国民の安全よりも、事故はめったにおきないという見通しのもとに行われてきたと言わざるをえない」と強く批判しました。

原告団「満足のいく判決」

判決のあと、「差し止め認める」と書かれた紙を示した原告団の南康人さんは、「今回の判決は満足のいくものだ。今後は、この判決をもとに全国の原発に関しても訴えていきたい」と述べました。
そのうえで、関西電力に対しては「きょうの判決を真摯(しんし)に受け止めてもらい、控訴しないよう訴えていきたい」と話しました。

関西電力「速やかに控訴」

判決について、関西電力は「これまでの主張が裁判所に理解してもらえなかったことについて、誠に遺憾だと考えている。判決文の詳細を確認したうえで、速やかに控訴の手続きを行い、控訴審において、引き続き、安全性を主張していきたい」というコメントを出しました。

「追い風になる」

21日の判決を受けて、関西電力大飯原子力発電所の3号機と4号機の運転中止を求めて京都地方裁判所に訴えを起こしている原告団が記者会見しました。
この中で、原告団の一人で、福島県から京都府に避難している福島敦子さんは、「福島県で起きた原発事故の影響を考えれば、原発の稼働を止めるのは重要で当たり前の判決だ。各地で原発の運転差し止めを求めている裁判の追い風になる」と話しました。
また、弁護団長の出口治男弁護士は「司法が国民の生命を守る役割を果たしてくれた判決だと思う。京都地裁での訴訟も頑張っていきたい」と話しました。

官房長官「政府方針は変わらない」

菅官房長官は午後の記者会見で、福井地方裁判所が大飯原発の3号機と4号機の運転を再開しないよう命じる判決を言い渡したことに関連し、原子力規制委員会で安全が確認された原発は運転再開を決定する政府の方針に変わりはないという考えを示しました。
この中で菅官房長官は、福井地方裁判所が関西電力に対して、大飯原子力発電所の3号機と4号機を運転再開しないよう命じる判決を言い渡したことについて、「国は当事者ではなく、コメントすることは控えたい」と述べました。
そのうえで、菅官房長官は、記者団が「原子力規制委員会で安全が確認されれば、原発を運転再開する方針に変わりはないのか」と質問したのに対し、「そこはまったく変わらない」と述べ、原子力規制委員会で安全が確認された原発は運転再開を決定する政府の方針に変わりはないという考えを示しました。
そして、菅官房長官は「世界で最も厳しいといわれる安全基準でしっかりと審査していただくなかで、その結果を待つということだ。少しでも恣意的(しい)なものや、政府の意思が入って再稼働させるべきではなく、あくまでも安全を客観的に判断してもらったうえで再稼働することが正しいと思う」と述べました。

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