焦点:フランスに迫る「原子力の崖」と「投資の壁」
フランスは今後数年以内に原子力中心のエネルギー政策を継続するかどうかを決断しなければならない。原子力維持の場合、コストは3000億ユーロ(4150億ドル)に達するが、他の燃料による発電を選択した場合も同様にコストはかさむ。
フランスで稼働中の58基の原子炉の大半は1980年代の短い期間に建設され、このうち約半数は2020年代に設計寿命の40年を迎える。これを業界では「原子力の崖」と呼ぶ。
フランス国民の原子力発電に対する支持は伝統的に強かったが、2011年の福島原発の炉心溶融(メルトダウン)以降は揺らぎが生じているようだ。
オランド大統領は電力に占める原子力のシェアを2025年までに現在の75%から50%に低減し、石油やガスの消費量を削減して再生可能エネルギーの利用を拡大させる意向だ。
政府系の仏原子力安全・放射線防護研究所(IRSN)のジャック・ルプサール所長はロイターのインタビューに対し「新たな原発整備の方向に進むかどうかに関して、意思決定に問題がある。そのためには準備が必要だ」と語った。
EDFは既存の原子炉の運転寿命を50年から60年まで延長する案を提唱しており、米国の類似した型の原子炉は60年の運転許可が認められていると主張する。
しかし、運転期間の延長許可権限を持つ唯一の監視機関である仏原子力安全局(ASN)は、現時点で電力会社は運転延長を当然のものと考えるべきではないとの立場を重ねて示している。ASNは第一次見解を来年に出す方針で、最終意見の公表は2018─19年の見通しだ
この結果、フランス政府には、気象条件や時間帯によって発電量が大きく変動する再生可能エネルギーの予備電源として、石炭やガス火力発電所を急いで建設するしか選択肢がなくなる可能性がある。
EDFの生産およびエンジニアリング部門の責任者を務めるドミニク・ミニエール氏は「もし運転延長が認められなければ、発電量の不足を補うための答えは明らかに原子力ではなく、ガス火力などになるだろう」と話している。
既存原発の他電源への更新費用の算定はエネルギー構成によって異なるため、様々な計算を要する。
仏会計検査院によると、現在の原子力による発電コストは2012年時点で1メガワット時当たり50ユーロ前後。これに対して洋上風力発電は62─102ユーロ、太陽光発電は114─547ユーロだ。EDFは新設の天然ガスや石炭火力発電はコストはメガワット時当たり70─100ユーロだとしている。
<決められない政府>
いずれのケースでもコストが巨額なことから、政府はこれまでのところ態度を決めかねている。
他方、EDFは英国の原発整備計画などで原子力技術やサービスの輸出を通じて利益を上げたい意向だ。
それでもEDFは既存原発を2025年までに更新する費用として550億ユーロが必要になるほか、最終的な更新費用をどう調達するか決断しなければならない。
国際エネルギー機関(IEA)のガス・石炭・電力部門の責任者ラズロ・ラブロ氏は「30年か40年経過したすべての原子炉を閉鎖するにしても、大規模な新たな発電所の建設が必要になる。これは財務面だけでなくプロジェクト管理の観点からも非常に大きな課題になる」と説明した。
緑の党が政権を離れた後でも、政府内の閣僚は原子力エネルギーに関して相反する意見を表明している。
今月初めにはこの2年弱で4人目となるエネルギー相が指名がされたばかり。フランスのエネルギー移行法案の審議は7月になる見通しで、予定は大幅にずれ込んでいる。
新任のセゴレーヌ・ロワイヤル・エネルギー相は政府内で強い発言力があるが、今週初めの記者会見では原子力政策に関する質問を避けた。
<安く、早く、環境に悪い>
原子力発電所を中心に新規のエネルギーインフラの建設に関し、決定を無期限に先送りすることはできない。
2007年に始まったフラマンビルの次世代原発の実験炉の建設は計画に何度も遅れが生じて建設費が当初の想定を超過しており、現時点では2016年の完成予定だ。
火力発電所の能力を拡大する方が投資や建設期間の観点からみても安価だ。しかし環境への影響や燃料費の高騰で、価格競争力も低下する可能性があるという問題点も抱えている。
北アフリカの生産停止やアジアの液化天然ガス(LNG)需要が活況を呈していることを受け、天然ガス価格は高止まりしている。
世界の鉱山大手の過剰供給で比較的安価な石炭火力を増やせば、気候変動に責任を負うフランスの温室効果ガス削減政策に逆行することになる。
このためIRSNのルプサール所長は、一定条件の下でフランスの原発は40年の寿命を超えて延長される可能性が高いとみている。
原発の稼働年数を10年または20年延長すると、フランス政府は安全性は高いが高額な新型炉の建設の必要性について考慮する時間が与えられる。有仏原子力大手アレバ(AREVA.PA: 株価, 企業情報, レポート)は現在、フランス国内のほかフィンランドと中国で新型の原子炉を建設中だ。
十分に償却を終えた旧型原子炉の運転を延長できれば、多額の債務を抱えるEDFが必要な資金の一部を確保することも可能になる。そうなれば、EDFが今後数十年間にわたって直面するとみられる「投資の壁」と専門家が名づけた課題を乗り越えることができるようになる。
EDFのミニエール氏によると、900メガワット(MW)の原子炉が稼働すれば年間の利払い・税・償却前利益(EBITDA)は2億ユーロ増加するという。
既存の原子炉の運転延長によっても費用は増大する。EDFは2025年までの原発更新費用に550億ユーロ必要とみている。福島原発事故を受けてASNは追加の100億ユーロを要求しており、EDFの原子力関連の投資額の合計は3000億ユーロに達する見通し。これは80年代や90年代に既存の原発建設にかかった費用の3倍以上の金額だ。
フランス議会で原子力のエネルギーコストを調査する委員会の委員長を務める緑の党のDenis Baupin議員は「コストの増加が公表されて膨大な投資額になりそうなことが分かり、多くの人々の熱意は冷めたと思う」と話している。
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