誤算が続く東芝の原子力事業は立ち直れるか 米国の原発新設案件が前進せず損失を計上
2006年に米ウェスティングハウスを買収するなど、海外の原子力事業強化に邁進してきた東芝。5月8日に発表した同社の2014年3月期決算は、その原子力事業が足を引っ張る内容になった。
一見すると、決算は好調そのものだ。同社の収益柱である電子デバイス部門は、半導体のNANDフラッシュメモリが年度を通じて好調に推移。同部門のセグメント営業利益は2385億円と前期比2.5倍の大躍進となった。電子デバイスが貢献したことで、14年3月期通期の営業利益は前期比47%増の2908億円を記録した。
24期振りの最高益更新を祝えず
前期比47%もの増益は、驚異的な伸びといえるだろう。しかも事前の会社側予想数字2900億円とピタリと一致しており、何ら問題がないようにもみえる。
しかし、本当はそうではない。フラッシュメモリが想定以上に稼いだにも関わらず、その他の事業が軒並み足を引っ張った。特に痛かったのが、電力・社会インフラ部門のうち主力事業の1つである原子力事業。同事業だけで約600億円の一時的な評価損失を計上したのだ。
中でも、米テキサス州マタゴルダ郡でABWR型原子力発電所を2基新設する案件「サウス・テキサス・プロジェクト」が大きな誤算だった。同プロジェクトの事業性が不安視されていることから、現地の開発会社であるNINA社の資産価値を保守的に見直さざるをえなかったのだ。この1件だけで310億円の営業益押し下げ要因となっており、「NINA社の件がなければ過去最高益だった」と東芝の久保誠副社長は悔しがる。
今回の営業利益実績2908億円に310億円を単純に足し込むと3218億円となる。確かに、1990年3月期に記録した3159億円の過去最高益を24期振りに更新するはずだった。
東芝のライバルである日立製作所は2月4日に2014年3月期の営業利益見通しを従来の5000億円から5100億円へと上方修正。1991年3月期の5064億を上回り23年ぶりに過去最高益を更新する見込みだ。東芝は、久方ぶりの過去最高益をライバルと同時に祝うことができなかった。
事業性を疑われるサウス・テキサス・プロジェクトでは、いったい何が起きているのだろうか。
同プロジェクトは日本企業が海外で初めて取り組む原発新設案件。東芝は2008年に同プロジェクトの主契約者となり、翌年にはプラントの建設を含めたプロジェクト全体を一括受注することに成功。これを足がかりとして、海外新設案件を強化することを目指していた。
だが、2011年3月11日の東日本大震災により東京電力福島第一原子力発電所の原子炉がメルトダウンを起こしたことで、状況は急変。東芝によると、米原子力規制委員会(NRC)は2012年半ばに建設許可を出す見込みと説明していたというが、現在も許可を出していない。久保副社長は、「2016年1月にも許可が出る見込み。許可が下りれば、(今回計上した損失310億円のうち)大半は利益として戻ってくる」と話す。もちろん、そうなる可能性もあるが、NRCの許可がさらに延期される可能性も否定できない。原発建設に出資する肝心の投資家も決まっていない。
2015年3月期は4000億円を目指す
とはいえ、2015年3月期の決算見通しは暗いものではない。8日に明らかにした2015年3月期の営業利益見通しは3300億円。電子デバイス部門の営業利益が1800億円(前期比25%減)に落ち込む一方で、原発関連の損失がない電力・社会インフラ部門の営業利益は2.2倍の700億円を見込む。さらにテレビや白モノなどのライフスタイル部門が赤字を脱却することで、過去最高益を更新する計画だ。
しかも、この目標はさまざまなリスクを織り込んだ保守的な数字だという。「4000億円を目指しており、3300億円は最低限としてのコミットメントだ」(久保副社長)。
過去の営業利益実績を振り返ると2011年3月期2402億円、2012年3月期2066億円、2013年3月期1943億円と減益が続いていた。そこから反転し、2014年3月期は2908億円。そして今度は4000億円を目指すわけであり、停滞期を脱し収益拡大期を迎えているのは間違いない。
残された大きな課題は、原子力事業が、依然として同社を揺さ振る大きなリスク要因になっていること。電力・社会インフラ部門は、原発に過度に頼らず、成長事業を複線的に備えていく必要がある。
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