徹底追及! 収束宣言の大ウソ!冷温停止はしていない


3月14日に爆発した、福島第一原発3号機の原子炉建屋。屋根が落ち、無残な姿を晒した(9月29日撮影)〔PHOTO〕東京電力提供
 東電・政府はツイッターで報告された「上がり続ける蒸気」を無視するのか。他にも原子力安全・保安院も認めた「汚染水を運ぶホースに穴」や「1京ベクレル超の海への流出」など解決不能の問題が山積しているじゃないか
「政府は、原子炉が冷温停止状態になったということで事故の収束を宣言しましたが、いまだに原子炉の状況は正確に把握できていません。燃料が、圧力容器内にどれだけ残っているのか、格納容器内に落ちた燃料がどんな形をしているのか。何もかも分からない状態なんです。〝収束〟という言葉で事実をごまかしているだけで、現実は甘くありません」
 元東芝の技術者で、福島第一原発の設計者でもある後藤政志氏は、こう言いきった。12月16日、東京電力は、福島第一原発1~3号機において、原子炉の内部が100℃未満になる「冷温停止状態」に至っていると発表した。それを受けた形で、野田佳彦首相(54)は、「原子炉の安定化」が達成されたとして、政府と東京電力が独自に作成した「事故収束に向けた工程表」の「ステップ2」の完了を宣言した。事実上、「福島第一原発事故の収束」を謳ったものだった。
 ニューヨーク・タイムズ紙は、電子版記事で「事故に対する世論の怒りを鎮めるためだけの勝利宣言だ。誇張された印象を与える」と批判。また、CNNは「約半年間の原発の状況は基本的に変わっていない」と懐疑的な見方を示した。
 東電は、現実に起きている危険の数々を無視した。実際には何が起きているのか、後藤氏らの分析を基に解説しよう。

溶融燃料の行方

 後藤氏は、メルトアウトした核燃料について、こう指摘する。
「融けた燃料の現状を把握していない点が、大問題です。原子炉内の温度が100℃未満だといっても、見当違いの箇所を測定している可能性もあります。融け落ちた核燃料が格納容器のコンクリートを深く浸食して、冷却水と触れ合う面積が少なくなり、充分に冷却できていない可能性もあるのです」
図表作成 アトリエ・プラン
拡大画像表示
 東電の試算では、格納容器に落ちた核燃料は、最大で65cm程度コンクリートを浸食している可能性があるという。格納容器のコンクリート部分は、最も薄いところで37cm。最悪の場合、もうすでに格納容器すら突き破り、核燃料による浸食が止まらないアルゼンチン・シンドローム(注1)の可能性も否定できない。
 政府と東電は、本誌に「格納容器は全体の空間温度を測っている」と答えた。つまり、燃料の位置把握どころか水温そのものを測定していないのだ。これが彼らの言う「冷温停止」の根拠だ。だが、原子力安全・保安院広報課は、開き直る。
「政府と東電は、4月12日の菅直人首相(当時)の指示で『東京電力福島第一原子力発電所・事故の収束に向けた道筋』を作成、4月17日に公表しました。その中で、ステップ2の達成条件を『放射性物質の放出が管理され、放射線量が大幅に抑えられている』こととしています。事故当初、爆発が起こったり、炉内の温度が急上昇したり、制御できないような事態になったりといった状況に比べれば、〝原子炉〟は安定したということです」
 マシになったから収束宣言しましたとは、国民をバカにした話だ。
注1 溶融した核燃料が地球を突き抜けるという、「チャイナ・シンドローム」から来る造語。日本の真裏がアルゼンチンであることから

止まらない汚染水流出

 海に流出した放射能汚染水も、重大な問題だ。日本原子力研究開発機構の計算によれば、東京電力は、事故直後の3月21日~4月30日の41日間だけで1京5000兆ベクレルにも及ぶ放射能汚染水を海に漏出・流出させている。しかも東電の発表では、3月末に漏れ出た汚染水は目視で確認できなかったとして、4700兆ベクレルと試算していたのだ。
「汚染水が地下水に漏れ出たことは、事故直後から確認されていましたが、これは格納容器はおろか、原子炉建屋、タービン建屋の外壁が破壊されているということなんです。しかし、具体的な破壊箇所は分かっていません。現在、汚染水の水位が地下水よりも低く、地下水へ流出していないといっても、根本的な解決にはなっていないんです」(後藤氏)
 今後大きな余震が発生して、さらに建屋が破壊された時には直接核燃料と接する高濃度の汚染水が、太平洋の海へと流出することになる。東電が汚染水の漏出防止用として計画する遮水壁も、'14年度半ばの完成を目標としている有り様だ。
 保安院の回答は当を得ない。
「滞留水(建屋内の汚染水)も地下水より水位が低くなっていて、流出する恐れが低くなっています。全体を見れば、『汚染水が溜まっているじゃないか』という指摘もごもっともですが、そういったことは、『福島第一原子力発電所1~4号機の廃止措置等に向けた中長期ロードマップ』で対策を講じていますので、ステップ2の達成とは関係のない事項です」
 政府は、汚染水流出の危険を無視したまま、事故の収束を宣言したのだ。

蒸気は漏れ、ホースには穴が

 '11年8月、ツイッターで「福島第一原発内で地割れが拡大し、水蒸気が噴出している」という情報が流れた。最近では@Happy20790という、原発作業員と覚しきツイッターユーザーが、「汚染水を運ぶホースにチガヤ(注2)が穴を開けてしまい、チガヤが枯れた今、穴から汚染水が漏れている」というつぶやきを残している。これらの情報について政府および東電は揃って「穴は確認しています。原因は究明中です」と平然と回答。冷温停止状態を宣言した翌17日に、1号機の使用済み核燃料プールから水が漏れ、冷却装置が停止する事態が発生しているというのに、この厚顔だから恐れいる。
 そもそも、現状を維持するのですら、〝綱渡り〟の状態だと指摘する声もある。
「後先を考えず、炉心に水をかければ、温度は下がります。しかし、発生する汚染水の処理が不完全だから注水を抑えなければなりません。かといって、注水量を抑えすぎると、また高温になる可能性もあるんです」(東京電力社員)
東電社員の間では、廃炉に対し、不安が広がっている。
「冷温停止が宣言されて、これから廃炉作業が始まりますが、燃料棒は目視できないし、どんな状態かも分からない。見えないものを手探りで取り出す技術も確立されていないのに、廃炉に何年かかるかなんて分かりません」(前出・東電社員)
 東電の相澤善悟副社長は、12月21日、廃炉に向けたロードマップを説明する記者会見の場で、「今後40年にわたる大きな一歩を踏み出した」と発言したが、「技術もない中での政府の発言は、希望的観測にすぎない」と後藤氏は斬り捨てる。
 原子炉が冷えている理由に明確な自信が持てず、解決不能の問題が山積するなか、政府は「冷温停止」を宣言した。今年から警戒区域内も除染を進め、避難区域を見直し、早期に住民を帰宅させる方針も示している。しかし、経済産業省のあるキャリア官僚は、辛辣だ。
「もともとステップ2は、〝冷やし続けるシステムができた〟という意味にすぎません。安全という意味でも、住民が帰宅できるという意味でもないんです」
事故は収束したという政府の大ウソに振り回され、国民の不安は募るばかりだ。

コメント

人気の投稿