アジア原発、日米協力が軸 原子力・安保で国際シンポ

都内で20日に開いた国際シンポジウム「原子力と安全保障を考える」では、高い原子力技術を持つ日本と米国の協力関係が「アジアの原子力秩序」に不可欠との意見が目立った。中国、インドなど新興国が相次ぎ原発の建設を進めるなかで、今後も日米両国が核の平和利用でリーダーシップを発揮すべきとの見方が相次いだ。
 シンポジウムは日本経済新聞社と日本経済研究センターが主催した。パネル討論の中で遠藤哲也・日本国際問題研究所特別研究員(元朝鮮半島エネルギー開発機構担当大使)は「アジアの原子力秩序を守るためには、日米が中心となって核の防護(Security)、安全(Safety)、不拡散(Safeguards)の『3S』を推進すべきだ」と強調した。
 ジョン・ハムレ米戦略国際問題研究所(CSIS)所長も「日本は高い原子力技術を持つ上に、核の拡散防止でも積極的な役割を果たしている」と評価。「日本が原子力を維持することは日本だけではなく世界の安全保障にとっても重要だ」と述べた。
 ロバート・ウィラード米原子力発電運転協会理事長は北朝鮮の核開発などで「核拡散は現実の脅威」と指摘した。「日本は原子力技術の強力な供給者として平和利用を促進し、核不拡散の分野での影響力は大きい」と述べた。
 秋山信将・一橋大学教授も「原子力は国際政治を左右する大きな能力だ」と指摘。核不拡散などの関わりも考慮したうえで原発政策を議論する必要があるとの立場を示した。
 米原発大手のゼネラル・エレクトリック(GE)とウエスチングハウスはそれぞれ日立製作所、東芝と協力関係にある。米専門家の発言からは、日本の原発産業が衰退することへの危機感もにじむ。
 米英仏中ロの5大国に核兵器の保有を限定する核拡散防止条約(NPT)の枠内で、国際社会は原発燃料の製造から再処理までの核燃料サイクル技術を被爆国の日本に例外的に認めた経緯がある。日本は原発部品の世界への供給でも主導的な役割を果たしてきた。
 経済面から日本に早期に原発を再稼働するよう促す声も多かった。ファティ・ビロル国際エネルギー機関(IEA)チーフエコノミストは「原発がなく電力コストが高い状態が続けば、日本の鉄鋼業や石油化学業などは競争力を保てない」と指摘した。火力発電用の燃料輸入増などで年間1.3兆円の負担となるとの予測も示した。
 日本では原子力に代わるエネルギー源として米国産シェールガスに期待する声もある。これに関して、ビロル氏は「輸入しても輸送などにコストがかかり、過剰に期待してはならない」と指摘した。
 山名元・京都大学原子炉実験所教授も「天然ガスは長期的な市場のあり方が不確定で、ベース電源にすべきではない」との見方を示した。
 福島第1原子力発電所の事故の教訓については、リチャード・メザーブ米カーネギー研究所所長が「設計時の想定を超える極端な事象にも対処できる安全策が必要だ」と言及した。電力会社や規制当局を含めた明確な指揮系統が重要だとも述べた。
 原発事故に伴う放射性物質の影響については、「健康に対する影響が見られなくても、避難や土地の汚染で国民生活に大きな影響を与える」と話し、心理的、社会的影響も重視すべきだと指摘した。

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