[原子力基本法] 核武装に道を開くのか


消費税増税法案をめぐる国会のどたばたに紛れて原子力基本法が改正され、日本の核武装に道を開きかねないと懸念されている。さしたる議論も説明もなしに、平和国家の理念が変質するのは看過できない。政府は拡大解釈の余地がないよう再改正すべきだ。
 東京電力福島第1原発事故を受け、規制行政を一新する原子力規制委員会設置法は20日成立した。問題はその付則で原子力基本法の一部を改正し、利用目的に「わが国の安全保障に資する」との文言を追記したことである。
 原子力基本法は1956年に施行された、いわば原子力の憲法というべき法律だ。2条で原子力の研究、開発、利用を平和目的に限定している。
 そこに安全保障を追加したことで、「核武装の布石とも読める」と韓国メディアなどが批判、内外に波紋が広がる事態になった。
 設置法は民主、自民、公明の3党合意に基づいて提出され、わずか4日間の国会審議でスピード成立した。目立たない付則に盛り込まれたため、3党以外の議員にとっては寝耳に水の基本法改正だったようだ。
 基本法は政策の基本方針を示したものだ。それを下位の法律の、それも付則で改正する手法はどう考えてもおかしい。
 設置法成立を主導した自民党は「核物質の軍事転用を防ぐ保障措置(査察)の所管を原子力規制委員会に移し、日本が核兵器を保有しないよう制度設計した」と説明する。細野豪志環境相も「核不拡散や核テロ対策の観点から加えられた文言」と答弁した。
 それなら核兵器の開発放棄を明記すればいい。安全保障に資するを素直に読めば、国防に原子力を使うということではないか。
 日本は非核三原則を国是とし、唯一の被爆国として核拡散防止条約(NPT)体制の強化、包括的核実験禁止条約(CTBT)の批准国拡大に力を注いできた。基本法を改正しても、核武装のハードルが高いのは明らかだ。
 しかし、日本は非核保有国で唯一、ウラン濃縮から使用済み核燃料再処理までの核燃料サイクル施設を持つ国である。潜在的核能力を持つ国が、あえて疑惑を招こうとする意図が分からない。
 日本の宇宙政策は国会決議に基づき「平和利用」を掲げてきた。それが4年前の「安全保障に資する」と記した宇宙基本法成立で、早期警戒衛星の導入などに大きくかじを切った前例もある。
 国民的な議論もないまま、原子力の基本政策をいじるのは許されない。直ちに元に戻すべきだ。

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