JAEAなど、カザフスタンで原子力発電の「小型高温ガス炉」関連で受賞


日本原子力研究開発機構(JAEA)は、基本仕様及び系統構成、ならびに炉心核熱流動設計など、原子力発電の「小型高温ガス炉システム」の炉心の高度化に関する成果を、カザフスタン共和国アルマティ市で開催された「原子力の平和利用の課題に関する若手科学者・専門家国際会議」において、東芝、富士電機、川崎重工業、原子燃料工業、清水建設、丸紅ユティリティ・サービスの6者と共著で発表した。
従来設計に対して炉心核熱流動設計を改良し、コスト低減を可能とする高性能な炉心を可能とさせたことなどが評価され、今回の発表は外国人による約20件の発表の中から、3件選出されたベストレポート賞を受賞した形である。
JAEAは、耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料及び熱容量の大きい黒鉛構造物の使用と、長尺形状及び低出力密度を採用した炉心設計により、高温ガス炉が有する固有の安全性を最大限に活かし、外部電源が喪失し、かつ冷却材が喪失するような事故においても、環境や人に有害な影響を及ぼさない、安全性に優れた小型高温ガス炉の概念検討を、「高温工学試験研究炉(HTTR)」を用いて2010年より行っている(画像1)。
画像1。HTTRを用いて、高温ガス炉の固有の安全性を実証中
送電網が発達していない原子力新興国の地方都市における分散型の電力供給と熱供給を念頭に置き、安全性に優れた小型高温ガス炉の概念検討を実施しているところだ。検討に際しては、前述の国内企業の協力を得て進められている形である。
小型高温ガス炉は、(1)冷却材には化学的に不活性なヘリウムガスを用いているため、冷却材が燃料や構造材と化学反応を起こさないこと、(2)燃料被覆材にセラミックを用いているため、燃料が1600℃までの高温に耐え、放射性核分裂生成物(FP)の保持能力に優れていること、(3)出力密度が低く(軽水炉に比べ1桁程度低い)、炉心に多量の黒鉛(高純度で耐食性に優れた原子炉球黒鉛は難燃性である)などを用いているため、万一の事故に際しても炉心温度の変化が緩やかで、燃料の健全性が損なわれる温度に至らないことなどの安全性に優れている。
また、900℃を超える高温の熱を原子炉から取り出せることから、熱効率に優れると共に、水素製造などの発電以外での利用など原子力の利用分野の拡大に役立つ原子炉である。
例えばカザフスタン共和国では、クルチャトフ市に発電及び地域暖房を目的とし、将来的には水素製造も視野に入れた、原子炉出力50MW(5万kW)規模の小型高温ガス炉「カザフスタン高温ガス炉(KHTR)計画」が検討されている。「カザフスタン原子力発展プログラム」(2011年6月に政府布告)において、高温ガス炉の建設とそれを用いた発電と地域暖房などが記載されている形だ。
JAEAは国内企業と協力し、原子炉から取り出される750℃のヘリウムガスを用いた蒸気タービンによる発電や、プロセス蒸気供給及び地域暖房などの熱供給を行うシステムの基本仕様を決定すると共に、ヒートマスバランス計算を行い、系統構成を決定した(画像2)。
画像2。小型高温ガス炉システムの基本仕様及び系統構成
また、HTTRの通常運転時における炉心入口から炉心出口にかけての温度上昇は、約550℃と大きく、燃料最高温度を制限温度以下に維持するためには、3%~10%の12種類の濃縮度の異なるウラン燃料を用いて出力分布を最適化する必要があった。
今回、3種類の濃縮度の異なるウラン燃料を用いて、出力分布を最適化し、その状態を維持することに成功した形である。具体的には、ウラン濃縮度及び「反応度調整材」を調整することにより、出力分布の最適化を図ることで、炉心下部の燃料温度を低くし、鉛直方向の燃料温度分布を平坦化することに成功した。これにより、HTTRの約1.4倍の出力密度を実現したのである(画像3~5)。これは、単位出力あたりの建設コスト及び燃料コストの低減につながる成果だ。
画像3。小型高温ガス炉の炉心概略図
画像4。ウラン濃縮度と反応度調整剤(BP)の配置・仕様
画像5。小型高温ガス炉システムとHTTRの炉仕様比較
高温ガス炉システムは、燃料として1600℃の高温まで放射性核分裂生成物を閉じ込めることが可能な耐熱性に優れたセラミック被覆粒子燃料を用いているため、通常時燃料温度と異常時燃料制限温度との間に温度余裕がある。従って、冷却材流量が喪失し、さらに原子炉スクラム失敗を想定したような場合においても、ある程度の燃料温度の上昇が許容されるのが長所だ。
さらに、温度上昇に伴い「負の温度係数」により、炉心に負のフィードバック反応度が添加され、原子炉の出力は停止レベルまで自然に低下し微小出力で安定する。
さらに、熱容量の大きい黒鉛構造物の使用と、長尺形状及び低出力密度を採用した炉心設計により、事故時の崩壊熱による炉心の温度変化は緩慢であり、崩壊熱を、黒鉛構造物の高い熱伝導、原子炉圧力容器外側からの熱放射、大気の自然対流によって原子炉圧力容器外へ除去することが可能だ。
高温ガス炉は、このような固有の安全性により、外部電源が喪失し、かつ、主配管の破断によって冷却材が喪失するような事故において、炉心の強制冷却ができない状況においても、原子炉を自然に冷やすことができ、燃料や原子炉圧力容器などの健全性が損なわれないことを長所としている。
小型高温ガス炉の概念検討は2010年より行っており、これまでに、基本仕様及び系統構成の決定、ならびに炉心核熱流動設計が実施されている。今後は、小型高温ガス炉のプラント設計、安全予備解析、経済性予備評価などを実施する計画だ。

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