県内の原子力防災、住民避難に苦心 緊急区域30キロ圏に60万人

 東京電力福島第1原発事故は原子力防災を根底から揺るがし、国内最多の14基が立地する福井県にも大きな影響を与えている。国は防災対策の重点地域を大幅に拡大する方針だが、事故から1年たった今も具体的な見直しには至っていない。県は原子力防災計画の見直しを進め、18日には敦賀市で原子力防災総合訓練を実施するが、住民避難など暫定的な対応とせざるを得ない現状に苦心。県内市町も新たな防災計画の策定や独自の対策などに手探りの状態だ。防災をめぐる動きは滋賀、京都など近府県にも広がっている。(原発取材班)

 東京電力福島第1原発事故を受け国は、原発から8~10キロ圏だった防災対策の重点実施地域(EPZ)を、緊急防護措置区域(UPZ)として30キロ圏に拡大。半径5キロは予防防護措置区域(PAZ)とし、重大事故の際は直ちに避難を求める。さらに半径50キロを放射性ヨウ素防護地域(PPA)と位置付けた。

 ただ、具体的な対策内容は不明なままで、県は暫定的に5キロ圏の住民の避難方法や立地、隣接7市町の避難先を3月中に定める見通し。これまで原子力防災に無縁だった市町をはじめ、新たな計画づくりや対策強化に苦心している。

 PAZとして県内で避難の対象となるのは、敦賀、美浜、大飯、高浜の4原発の周囲にいる延べ約7千人。県は住民や学校、病院の要援護者の避難手段、経路、避難先をあらかじめ定める予定だ。

 一方、30キロ圏のUPZは距離が示されただけ。県内ではあわら、坂井、勝山、大野の4市と永平寺町を除く12市町が4原発から30キロ圏内に入り、市町単位の対象人口は計約60万人。新たな防災計画策定を視野に入れる市町からは「8万人を一度に避難させる計画づくりは頭が痛い」(越前市)といった悲鳴が上がる。

 市域の3分の2が30キロ圏内となるのは鯖江市。市内に圏内外が混在する形だが「市の取り組みとして統一的でないと住民は納得できない。市全域で一括して考える」(市防災危機管理課)との方針だ。

 県は従来のEPZを基に立地、隣接7市町の避難をまず考慮し、嶺北などに小学校区単位での避難先を検討中。ただ「避難後の行政機能の維持」の観点から避難先を当面県内に限っている。

 「県内なら行政サービスの面で受け入れ先の協力が得られやすい」(美浜町)と評価する声がある半面、嶺南の場合は滋賀県、京都府の方が距離が近いだけに「県は近隣府県と話し合うべきだ」(小浜市)、「京都府への避難を考えてほしい。町だけで交渉は無理」(高浜町)との声が出ている。県外避難について県は、調整を国に要望している。

 また、30キロ圏外に位置し避難先となる可能性がある市町も「拠点避難所を開放し、一時避難者を積極的に受け入れたい」(あわら市)などと前向きな姿勢を見せる一方、「県内だけで完結しようとするのは無理ではないか」との指摘もある。

 30キロ圏内の市町などでは、県境を越えた広域の避難先を独自に確保する動きも目立つ。南越前町は岐阜県羽島市と昨夏に災害時相互援助協定を結んだ。越前市は昨秋、石川県七尾市、京都府宇治市と締結し、新年度も岐阜県関市などと新たに結ぶ方針だ。小浜市も滋賀県近江八幡市と協定締結を予定する。

 福島では地元に情報が伝わらず避難は混乱し、防災計画は“絵に描いたもち”だった。県は「単に範囲を広げればよいのではなく、避難の現実性が必要で、実効性ある計画を立てて訓練するのが重要」(西川知事)とする。年度内には、嶺南の季節や天候、時間帯を踏まえた交通量などの基礎調査もまとめ、住民避難のシミュレーションに生かす考えだ。

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