原発再稼働 前のめりは不信を招く
関西電力大飯原発3、4号機の再稼働に向けた政府の動きが進んでいる。内閣府の原子力安全委員会は23日、経済産業省の原子力安全・保安院が「妥当」としたストレステスト(安全評価)の1次評価について、確認作業を終了した。
今後、野田佳彦首相と関係閣僚が再稼働の是非を政治判断した上で、地元の了解を求める見通しだが、前のめりの姿勢には問題がある。
これまでも指摘してきたように、現段階での安全確認には無理がある。ストレステストはもともと原発の弱点をあぶり出すものだが、個々の原発を独立に評価する日本のやり方では、それぞれの原発の相対的なリスクがわからない。
ひとつひとつの原発について、何を基準に再稼働してもいいと判断するのか、客観的な基準も今の段階ではない。たとえば、大飯原発3、4号機の評価によると、設計上の想定より1.8倍大きい地震の揺れに襲われても炉心損傷には至らないという。では、1.2倍の揺れでもだいじょうぶという評価だったら、どう判断するのか。
加えて、福島第1原発の事故の検証が終わっていない。それがわからなければ、リスクを見落とす恐れがある。
政府が了解を求める地元の範囲がはっきりしていないのも懸念材料だ。福島第1原発の事故で明らかになったのは、想像以上に広い範囲に放射能汚染が及ぶことだ。政府は、原発の重大事故に備える防災対策の重点地域を従来より広げ、原発から半径30キロとする方針だ。大飯原発の場合、その範囲には福井県の5市町のほか、京都府や滋賀県の一部も含まれる。
これらの地域も含め十分に説明するのは当然だ。「地元」を立地自治体である福井県とおおい町に限るのはおかしい。福島第1原発の事故を踏まえれば少なくとも30キロ圏内の自治体の了解を得る必要がある。政府の消極的な姿勢は改めるべきだ。
この段階で再稼働に踏み切ることについては与党内に異論があることも見すごせない。民主党の原発事故収束対策プロジェクトチームは「政治判断は時期尚早だ」との見解を示している。
今回の評価が、信頼を失った保安院や原子力安全委によってなされていることも、国民の理解を得るのにふさわしい体制とはいえない。本来、新組織の原子力規制庁が再稼働の判断基準を示すべきだ。
さらに基本的な課題は、「今、原発を再稼働しないと社会にどういうリスクがあるのか」を、政府が示すことだ。それをしないままに、再稼働を急ごうとすれば国民の信頼を失い続けることになる。
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