原子力機構理事長に松浦氏 二代続き元安全委員長

文部科学省は三十一日、高速増殖原型炉もんじゅの点検漏れ問題で引責辞任した日本原子力研究開発機構の鈴木篤之前理事長の後任に、旧原子力安全委員会元委員長の松浦祥次郎氏(77)を選んだと発表した。
 機構では、約一万点に上る点検漏れに加え、茨城県東海村にある加速器実験施設「J-PARC」での放射性物質漏れ事故など問題が相次いでいる。松浦氏は旧安全委の経歴を買われた形だが、機構の安全軽視の体質は根深く、抜本的な組織改革を実現できるかどうかは未知数だ。
 発令は六月三日。任期は、鈴木氏の残り任期の二〇一五年三月末まで。下村博文・文科相はこの日の記者会見で、「原子力の専門分野と安全規制の両面で高い見識があり、『安全文化』の劣化が指摘される機構の改革に最もふさわしい人物だ」と述べた。
 松浦氏は一九六〇年、京都大大学院工学研究科を修了。専門は原子炉物理学で、京都大助手から機構の前身の日本原子力研究所に入り、原子炉内の中性子の動き方を調べるなど基礎研究にあたり、同研究所の理事長を務めた。〇〇年四月から六年間、旧安全委の委員長を務めた。原子力の推進、規制双方の要職を歴任した。
 東京電力福島第一原発事故が発生して間もなく、原子力規制委員長の田中俊一氏らと記者会見を開き、「原子力の平和利用を先頭に立って進めてきたものとして国民に深く陳謝する」と謝罪。
 科学者の良心を示す一方、事故直前、経済産業省資源エネルギー庁の広報誌向けに開かれた対談で、福島第一など古い原発の安全性を強調。事故後、エネ庁が「適切さを欠いた」と、そのまま記事掲載したことにおわびを出したこともあった。

◆文科省、運営力より知識

 日本原子力研究開発機構の理事長は、二代続けて原子力安全委員会の委員長経験者になった。前任の鈴木篤之氏は「安全、安心を最優先」と掲げながら、もんじゅの点検漏れ問題を起こし、引責辞任に追い込まれた。再び同じポストの経験者から新理事長を起用する文部科学省の判断には疑問符も付く。
 文科省は、原子力の基本的知識がある▽安全確保にしっかり取り組む▽組織運営の実務経験があり、安全管理の取り組みを浸透させることができる-ことを条件に人選した。
 組織の立て直しを考えるなら、原子力の知識が多少乏しくても、組織運営に手腕のある人を広く募る選択肢もあった。それなのに文科省は「放射線、原子力の世界は生半可な知識では対応できない」とこだわった。
 候補者は少なく、七十七歳の松浦祥次郎氏に落ち着いた。「松浦さんがいなければ、(八十二歳の)住田健二元安全委員長代理が候補になったかもしれない」と話す文科省幹部もいた。
 文科省は安全委出身者に人材を求めるが、同委は電力会社などが反発する厳しい規制には及び腰で、福島の原発事故後は廃止された。 (加藤裕治)
 <日本原子力研究開発機構> 高速増殖炉や、使用済み核燃料からプルトニウムを取り出す再処理、放射性廃棄物の処分などの技術開発、原子核の研究などをする文部科学省所管の独立行政法人。2005年、当時の日本原子力研究所と核燃料サイクル開発機構が統合して発足した。本部は茨城県東海村。福井県、福島県など国内各地に研究所などがある。

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