原子力規制委/不信だらけの強行突破だ

原子力の新たな安全対策を担う国の「原子力規制委員会」が、法律の抜け穴をすり抜けるようにして発足することになった。こんな姑息(こそく)な手段でスタートさせては、規制委への信頼は到底得られない。
 福島第1原発事故後の原子力行政に本気で取り組むつもりなら、国会の同意を得られるよう規制委員長らの人選を考え直すべきだった。仮にこのまま発足させるにしても、次期国会では速やかに同意を得なければならない。
 規制委は委員長1人と委員4人の計5人で構成される。その下に事務局の「原子力規制庁」を置き、これからの原子力行政を一手に引き受ける。5人の任命には「国会同意」、つまり採決による賛成が必要だと法律(原子力規制委設置法)で規定されている。
 ところが、政府は同意を得ないまま野田佳彦首相の「権限」で任命し、19日に規制委を発足させることを決めた。
 原子力の新たな規制組織は、ことし4月に発足するはずだった。半年近くも延び、もはや待てないということだろうが、民主党政権の人事の稚拙さが遅れをもたらした最大の要因だ。
 特に、トップの人選は理解に苦しむ。
 委員長候補とされる田中俊一氏は前の原子力委員会委員長代理であり、つい3年前まで原子力行政の中心にいた人物だ。それ以前は、日本原子力研究所(現・日本原子力研究開発機構)の研究者だった。
 原子力についての広範な知識を有しているとしても、原子力委員経験者をトップに据えるのは非常識だ。規制委に何より求められるのは、原発の安全規制を骨抜きにした「原子力ムラ」からの決別だからだ。
 そのほかの委員も含め、今回の人事案からは「脱原子力ムラ」のメッセージがさっぱり伝わってこない。むしろ、「ムラ回帰」と受け止められる中身だ。「ベストメンバー」(細野豪志・原発事故担当相)だという政府の説明は全く納得できない。
 案の定、反対する声が民主党内でも強まっていた。人事案は7月末に国会に示され、8月上旬の採決が予定されていたが、多くの造反者が出る可能性があったことから、採決は結局見送られた。
 その揚げ句、首相権限による緊急任命になったのだが、その理屈付けも極めておかしい。
 「閉会または衆院解散で国会の同意を得られない時は、首相が任命できる」との規制委設置法の付則を根拠にしている。なぜ最初から、こんな場当たり的な決め方をしなければならないのか。
 堂々と採決し、同意を得られなかったら選考し直すべきだった。そもそも採決に持ち込めないようなら、引っ込めるのが筋だろう。政府のやり方は全く理解できない。
 常識外れの浅ましい進め方で発足させたのでは、原子力安全規制が台無しになってしまう恐れすらある。

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